大学4年生だった2001年の夏、ホンダのCB-1というオートバイにテントを載せて北海道を旅した。苫小牧港から上陸し、富良野、留萌、宗谷岬、中標津 知床半島、襟裳岬と海岸線を中心に走った。きっかけは「振り返れば地平線」というオートバイ小説を読んで、そこに描かれていた北13号線という地平線が見える道路を走ってみたくなったからだった。
その夏は、ポルノグラフィティの「アゲハ蝶」という曲が流行っていた。北海道出身のバンドということもあって、どこの観光名所にいってもこの曲が流れていたのを覚えている。哀愁をたたえたスピード感のある曲はオートバイの旅にあっていた。
テント泊とライダーハウス泊まりを続けて、2週間、北海道の大地を走りまわった。現在までを通じて、人生で一番長い旅行だ。どこでどうしていたかよく覚えていないが、名所見物もそこそこに、毎日数百kmを走り続けた。期待を込めて走った北13号線の小説で描かれた場所は、確かに地平線は見えたような気がしたけれど、案外普通の丘陵のようだった。
途中から、もう長い間ずっとこうして旅をしてきた気分になっていた。後にしてきた実家に現実感が無かった。ガソリンさえオートバイに入れれば、このままいつまでも走り続けていられそうだった。
でも、いずれ現実に引き戻される時が来る。旅の終わりにこう思った。「家に帰ることで、旅が終わるわけじゃない。これからの人生すべてがこの旅の続きなんだ。そう考えたほうが楽しいじゃないか。」
あれから20年が過ぎ、オートバイはいつしか車になり、40代には遅い結婚をして、今は人生で初めての軽自動車に家族を乗せて走っている。これまでで一番スピードの出ない車だけど、スピードではたどり着けないところを、今トコトコと走っている。
あの旅は今日も続いている。日々、変わりゆく自分と世界を感じながら呼吸すること。いつでも「カリオストロ公国に出発できる」気持ちでいること(笑)
そんな気持ちで生きることができれば、毎日の生活が、そのまま旅になるのだと思う。
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